系統樹

三中信宏 「系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに」講談社現代新書

p.24

系統樹思考ではまずはじめに「何か相互に由来関係があるのではないか」という問いかけをします。

http://www.bmanuel.org/corling/corling2-0.html

系統樹はさまざまなもの(生物・無生物)を系譜に沿って体系的に理解するための手段です。系統樹思考とは、そのような体系的理解をしようとする思考態度であると定義できます。

p.62 歴史学者 カルロ・ギンズブルグ Carlo Ginzburg

資料は実証主義者たちが信じているように開かれた窓でもなければ、懐疑論者たちが主張するような視界をさまたげる壁でもない。いってみれば、それらは歪んだガラスにたとえることができるのだ。 (「歴史・レトリック・立証」みすず書房 p.48)

データという”歪んだガラス”を通して向こうを覗くとき、私たちはデータと理論のいずれに対しても「真偽」を問うことはありません。理論がデータと矛盾していれば「偽」、整合していれば「真」という強い関係を仮定するのではなく、もっと弱い関係を両者の間に置こうということです。

ここでいう「弱い関係」とは、観察データが対立理論のそれぞれに対してさまざまな程度で与える「経験的支持」の大きさを指しています。論理的な「真偽」と比較して、経験的な「支持」はデータと理論とのはるかに弱い関係です。しかし、それでもなおデータは、理論の相互比較を評決する場での発言権を保持し続けています。

p.65

十九世紀の哲学者にして記号論の創始者であるチャールズ・S・パースは、与えられた証拠のもとで「最良の説明を発見する」推論方法を、「アブダクション(abduction)ということばによって表そうとしました。

理論の「真偽」を問うのではなく、観察データのもとでどの理論が「よりよい説明」を与えてくれるのかを相互比較する——アブダクション、すなわちデータによる対立理論の相対的ランキングは、幅広い科学の領域(歴史科学も含まれる)における理論選択の経験的基準として用いることができそうです。

p.115

早田は、この世の万物が形成する網状ネットワークを踏まえた分類体系こそ、「自然な関係」に基づく「自然分類」であるという確信を抱いていました。(Hayata “The natural classification of plants according to the dynamic system”,台湾植物図譜・台湾植物試料 第拾巻、p.99 、 1921)

早田の論文には、きわめて印象的な彩色図一葉が掲載されています。ビーズ状に色分けされているのは「遺伝子」であり、それが複数の曲線によって結びつけられています。このような要素間の結合を多次元化したものが、早田のイメージした高次元ネットワークでした。

http://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/diary2004-12.html

興味深い点は、早田がこのようなネットワークをそもそも思いついたきっかけは、天台宗華厳経の教義をたまたま知ったからだと論文中に書いていることです。

p.122

系統樹思考と分類思考の背景について簡単に説明しましょう。

世界各地の先住民族は、身の回りの動植物相をそれぞれ独自の生物分類——民俗分類(fork taxonomy)と呼ばれています——をつくることで整理してきました。彼らの知識体系をかたちづくってきた民俗分類を通文化的に比較してみると、比較的層の浅い階層的な分類を共通して行っていることがわかりました(Brent Berlin “Ethnobiological Classification”,1992 Medlin and Atran “Folkbiology”,1999)。互いに行き来のない民族どうしがこのような共通性をもっていることは驚くべきことです。

さらにそのような民俗分類の形式は、十八世紀にスウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネが確立し、現在もなお広く用いられている科学的な生物分類(リンネ式分類)とも共通しています。つまり、階層的な生物分類は、けっして西洋文明のもとでのみ成立し得た社会的・文化的な構築物ではなく、むしろ私たち人間に生得的に備わっている分類性向(対象物を認知的に階層カテゴリー分けする性向)に適合した分類様式であるとことが示唆されます。このことは、乳幼児の分類行動を調べた発達心理学の研究結果とも整合しています。(略)

他方、系統樹思考には進化的な概念体系が必要になります。つまり、対象物の間に何らかの由来に伴う系譜関係の存在(生物であれば、祖先子孫関係)を仮定し、その関係に基づいて対象物を体系化するという思考法です。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。