ケータイメールが言語を救う

インターネットの普及は、世界中で、利用人口の少ない書き言葉を一層苦境に追い込む作用がある。利便性からネットの利用は促進されるが、母国後のコンテンツが充実している国はそう多くはなく、ネットの先進ユーザー=若者の母国語離れに苦慮している国も多い。

まずもって、コンピュータが言語=文字を実装するにはそれなりに開発コストがかかるし、それだけの市場規模がなければ開発に着手するという経営判断は当然ともいえる。

さらに、技術的に難しいという事情もある。たとえば、カンボジアのクメール語(文字)は字形が複雑に組み合わせって文字や単語ができる。それに対して、英語のように数十種類の決まった字形の直線上のひとつながりで単語が構成される。さらには、発音の順番に文字が並ばない?というケースもあるらしく、機械化することの困難さは容易に想像できる。

(参考:タイ語,ラオス語,カンボジア語(クメール語)の文字処理と組版における課題/アンテナハウスKK)

しかし、日本語や漢語のように何千という字形の入力を音声から字形に変換するソフトウェアの開発が克服したように、技術の進歩により少しずつ改善されていく。ただし、進歩の速度が間に合わなくて、ひとつの固有の言語、ひいては固有の文化が失われてしまっては人類にとっての大きな損失である。

How the Lowly Text Message May Save Languages That Could Otherwise Fade/wsjの記事は、携帯電話に搭載されている予測変換の技術が、携帯電話の少ないキーパッドでも文章入力を可能とし、さらには、携帯メール=ローカルなコミュニケーション、すなわち現地の言葉でのコミュニケーションに貢献するものとして評価している。

記事によると、現在世界で約7000ある書き言葉のうち、コンピュータに取り込まれている言語は約80、コンピュータに取り込むだけの市場規模があると思われる言語の数は200ということだ。

ヒンズー語の場合は、11の母音と34の子音からなるそうだが、こんにちはに相当する「ナマステ」を携帯電話で入力するのに21回もキーを押さないと行けない。ちなみに「こんにちは」の場合も予測変換がなければ、5+3+2+2+1=13回だ。予測変換を開発している米Nuance社の調査によると、予測変換を使うと30%ほど入力速度が速いという。

携帯電話の言語対応によって、ゲール語やウェールズ語が若い人にもよく使われるようになったという。もしかすると、3年くらい前の方言ブームも、ひょっとすると、携帯電話が一役買っていたかもしれない。つまり、ちょっと新鮮で懐かしい感じの言葉が、簡単に実践できるのだ。学校の勉強では方言は使えないし、手紙で方言をつかうのも、改まってときだから手紙なわけで、くだけた様子はあんマッチだし、携帯電話で友達にメールするのなら、どんな「実験」だってお手軽だ。

携帯電話メーカーにとっても、現地の言葉に対抗することは、競争戦略上必要なこととなっている。実際、インドの携帯電話会社では、12カ国22言語対応した端末を提供している。先の、ゲール語の端末は、韓国の端末メーカーのサムソンがノキアを出し抜くために搭載したのだ。すでに、世界全体の携帯電話の普及率は50%を超えたが、残された市場の多くは、外国語を日常使う人ではないだろう。そうした市場では、西洋や東アジアではあたりまえの、普段使っていることばが使える携帯電話というのが大きな武器になってくるのだ。

インターネットが若者を現地語から引き離す作用とは逆に、携帯電話が若者を現地語に呼び戻していると思うと、言語や文化に対する技術の影響は思いのほか大きいのかもしれない。

追記 ユネスコの発表記事 

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